「今中」を生きる ! 75歳から見えてきた“今この瞬間”の大切さ

1. はじめに 「今中」という考え方との出会い

年齢を重ねると、「これから先、どのように生きていけばよいのか」と考える時間が増えてきます。若い頃は未来に希望や夢を重ね、働き盛りの頃は日々の忙しさに追われていました。しか75歳を過ぎ、残された時間をどう過ごすかに心を向けるようになりました。

そんなとき、ふと出会ったのが「今中(いまなか)」という言葉です。辞書に載っているわけでもなく、特別な表現ではありません。しかし、「今という瞬間のただ中に身を置く」という感覚を、見事に言い表しているように感じました。

振り返れば、私たちの心はいつも過去と未来のあいだを行き来しています。過ぎた日を悔やみ、まだ来ぬ未来を不安に思うことも少なくありません。けれど、実際に生きているのは常に「今」です。「今中」とは、その瞬間をしっかりと感じ、味わう生き方のことなのです。


2. なぜ「今中」が人生に大切なのか

私たちの人生は、時間の流れの中にあります。しかし、実際に体験できるのは「今」という瞬間しかありません。ところが人間の心は、しばしばその事実を忘れてしまいます。過去の後悔や未来の不安に心を奪われ、今を見失うことがどれほど多いことでしょう。

「今中」を生きるとは、その瞬間にしか存在しない“現実”を大切にする姿勢です。たとえば孫と遊んでいるとき、心が別のことに向いていたら、その笑顔は一瞬にして過ぎ去ってしまいます。しかし心を「今中」に置けば、その時間は忘れがたい宝物に変わるのです。

また、高齢になれば体の衰えや病気への不安も出てきます。「この先どうなるのか」と思い悩むこともあるでしょう。けれども未来は誰にもわかりません。確かなのは「今ここに生きている」という事実だけです。だからこそ「今中」に意識を置くことは、心を落ち着かせ、人生を穏やかにしてくれる大切な方法なのです。


3. 過去や未来に囚われる私たち

私自身、長い人生の中で幾度も「もしあの時、違う選択をしていれば…」と過去を悔やんだことがあります。人は誰しも、やり直したい瞬間や忘れたい出来事を抱えています。けれども、どれほど考えても過去は変えることができません。過去に執着することは、背中に重い荷物を背負い続けるようなものです。

また、未来についても同じです。「健康を保てるだろうか」「家族に迷惑をかけないだろうか」と不安に駆られることがあります。確かに備えは大切ですが、不安ばかりに心を費やすと、今を味わう力を失ってしまいます。

実は「過去」も「未来」も、頭の中のイメージにすぎません。存在しているのは「今」だけなのです。呼吸をしているのも今、食事を楽しむのも今、誰かと語り合うのも今。その瞬間の積み重ねこそが、人生の実体です。

私はあるとき気づきました。「後悔も不安も、心の中に作り出した幻ではないか」そう思った瞬間、心がすっと軽くなり、目の前に広がる景色が鮮やかに見えたのです。


4. 「今中」を実践するための小さな工夫

朝の時間を大切にする
朝起きたら、カーテンを開けて光や風、鳥の声を感じてみましょう。外の空気に意識を向けるだけで、今日一日の始まりが落ち着いた時間になります。

家族や友人との時間に全力で向き合う
会話中はスマートフォンやテレビを消し、目の前の人の笑顔や話に集中してみましょう。短いおしゃべりや孫とのやり取りも、心に深く残る思い出になります。

日常の動作を丁寧に味わう
食事のときは香りや食感をゆっくり味わう。掃除や庭仕事では、手に触れる物や土の感触に意識を向ける。普段の生活の中で「今」を感じることが、日常そのものを豊かにしてくれます。

呼吸や感覚に意識を戻す
心が過去や未来に引っ張られそうになったら、ゆっくり深呼吸をしてみましょう。息を吸い、吐くことに意識を向けるだけで、思考の渦から少し距離を置けます。

感謝の言葉で今を味わう
「ありがとう」と口に出すことで、目の前の人や物、出来事の価値に気づき、心が温かくなります。感謝の気持ちは、今この瞬間の豊かさを知る手助けにもなります。


5. おわりに ─ 今中を生きることが心の平安につながる

75年の人生を振り返ると、私は数えきれないほど「過去への後悔」と「未来への不安」に心を奪われてきました。ある日、本を読んでいるとき、ふとしたきっかけで「今中」という考え方に触れ、人生の見え方ががらりと変わったのです。

過去も未来も、結局は頭の中のイメージにすぎません。手の届く「今」に意識を向けることで、心に静かな安らぎが生まれます。小さな瞬間の積み重ねが、やがて人生の豊かさとなります。

人生の宝物は、遠い未来や過去ではなく、いつも「今」の中にあったのだと気づくと、日々の時間がより鮮やかに、深い意味を持って感じられるようになります。

もし、心が過去や未来に引きずられる瞬間があれば、ほんの少しだけ意識を「今中」に置いてみてください。その瞬間の中に、これまで気づかなかった小さな幸せがそっと広がっているはずです。


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