
生まれつきだと諦めていた私が、新しい人生を歩き始めた理由
第1章:運命は生まれつきだと信じていた私
70歳を過ぎ、私は「老い」を日々実感するようになりました。体力は少しずつ落ち、階段を上れば息切れがする。気づけば、会話の中心は通院や健康診断のことばかりです。
「まあ、年だから仕方ない」
「うちの親もそうだったから、私も同じだろう」
そんな言葉で、自身の変化をやり過ごしていました。もしかしたら、私は**「遺伝」**という言葉にずっと縛られていたのかもしれません。父は心臓病を患い、母は糖尿病で長年苦しみました。だから、私も同じ運命をたどるのは当然だと、心のどこかで諦めていたのです。
若い頃を振り返ると、「血筋には逆らえない」とよく言われて育ちました。何か問題が起きても「それは家系だから」と片付けられることが多く、その言葉が私の心に深く染み込んでいったのです。自分を変えようとすることさえ、どこか無意味に感じていました。
しかし、ある日、新聞で偶然目に留まった記事の見出しが、私の固定観念を大きく揺るがしました。
「遺伝子のスイッチが人生を変える――エピジェネティクスの可能性」
「運命は生まれつきで決まるものではない?」「体質や性格まで変えられる可能性がある?」
最初は半信半疑でした。それでも、心のどこかには希望が芽生えました。私の運命は、まだ書き換える余地があるのかもしれない。そう思った瞬間でした。
第2章:DNAにスイッチがあるって、どういうこと?
私たちの体は、約2万数千個の遺伝子からできています。でも、これらの遺伝子が常にすべて働いているわけではありません。実は、多くの遺伝子は環境によってON・OFFが切り替えられているんです。
この仕組みを「エピジェネティクス」と呼びます。
エピジェネティクスとは、DNAの配列そのものは変わらないのに、その遺伝子の「読み取り方(発現)」が変わる現象を言います。例えるなら、設計図は同じでも、どのページを使うかによって完成品が変わるようなものです。つまり、同じ遺伝子を持っていても、それが「働くか働かないか」で体の状態が変わってくるんです。
具体的には、こんなことが考えられます。
- 肥満や糖尿病の遺伝子がOFFのままであれば、発症しないこともある
- 幸福感や免疫力に関わる遺伝子をONにできれば、健康寿命が延びる可能性がある
これは、「遺伝だから仕方ない」と諦めていたことの多くが、日々の生活習慣や心の状態によって変えられる可能性があることを意味します。
この事実は、私たち高齢者にとってまさに夢のような「希望の科学」と言えるでしょう。
老いは止められなくても、その進み方を緩やかにすることはできます。遺伝子に逆らうのではなく、味方につけるという発想ですね。
さらに驚くべきは、これらの遺伝子スイッチが人生の後半になっても変化し得るという研究報告があることです。つまり、私たちの体は、私たちが思っている以上に柔軟で、環境に応じて変化できるようになっているんです。
第3章:スイッチを押すのは、日々の選択と意志
では、DNAのスイッチを押しているのは誰だと思いますか?
その答えは――私たち自身です。
- 何を食べて、どのように体を動かし、どう過ごすか
- 誰と時間を過ごし、何を感じ、どんな言葉を発するか
これら日々の積み重ねが、遺伝子のON/OFFに大きな影響を与えているんです。
たとえば、慢性的なストレスを抱え続けると、体の中で炎症を促す遺伝子がONになり、病気の原因となる炎症物質が増えやすくなります。逆に、心から笑ったり、感謝の気持ちを持ったりすることは、脳の神経伝達物質に良い影響を与え、健康に役立つ遺伝子の活動を高めることがわかっているんですよ。
これはつまり、私たちの日常の何気ない瞬間、例えば庭の花を眺めてホッとする時間や、お孫さんの笑顔に癒やされるひとときにも、遺伝子スイッチに影響を与える力があるということなんです。
私たちの感情や習慣、心の動きまでもが、遺伝子の働き方に影響を与えているんですね。
高齢期に入ると、時間的には残りの人生が短くなるフェーズかもしれません。
でもだからこそ、「どう生きるか」という選択が、より大きな意味を持つようになります。私たちの生き方は、単なる自己表現にとどまらず、体の内側に影響を及ぼす**“遺伝子へのメッセージ”**でもあるのです。
第4章:私が試した、小さなスイッチの変化
私は思い切って、「暮らしの中の選択」を見直すことにしました。
大きなことではなく、小さなことを、コツコツと実践する。
- 朝、太陽の光を浴びながら10分間散歩する
- 毎晩、寝る前に「ありがとう」を3回唱える
- 週に1回、自分の気持ちを日記に書き出す
- 食事に季節の野菜を一品加える
最初は半信半疑でした。でも、これらの習慣が少しずつ整っていくと、心の中の霧が晴れていくような感覚がありました。
すると、ゆっくりとですが、変化が訪れたんです。夜中に目が覚めにくくなり、気持ちの浮き沈みも減ってきました。些細なことに怒らなくなったのは、自分でも驚くほどです。さらに、以前よりも人との会話を楽しめるようになり、自分に対する肯定感が増したのです。
やがて、かかりつけの医師にも「最近、体調安定してますね」と言われました。
自分の意志が、自分の身体に届いたような感覚を感じました。
これは、高齢になってからこそ、価値のある体験ではないでしょうか。
第5章:運命は、今日からでも書き換えられる
「もう年だから」と言っていた過去の自分に、今ならこう言ってあげたいです。
「年齢を言い訳にするには、あなたはまだ生きる力を持っている」
人は誰でも、ある時期から「変わること」を諦めがちになります。
でも、エピジェネティクスは証明してくれました。何歳になっても、体も心も変化を受け入れる力を持っていることを。
運命とは、まるで線路のように敷かれたものではなく、歩きながら自分で切り開いていく道なのかもしれません。
過去がどうであれ、これからの選択が新たなページを作っていく。年齢は、挑戦することを諦める理由にはなりません。むしろ、経験を重ねた私たちだからこそ、より深みのある変化が可能なんです。
そして、その道を選ぶ力は、外ではなく、自分の内側にあるスイッチによって動き始めるんです。
おわりに:あなたの中にも、まだ眠っているスイッチがある
もし今、「これから何をすればいいのか」と迷っている方がいたら、私は迷わずこう伝えます。
「あなたの中には、まだ押されていないスイッチがある」
そして、それは誰かの許可を待つものではありません。自分の手で、今日からでも押せるのです。
大きな変化じゃなくていいんです。深呼吸でも、笑顔でも、人とのつながりでも。
そうした一つひとつの行動が、遺伝子に働きかけ、あなたの未来の姿を変えていくんですよ。
生き方が遺伝子を変える。遺伝子が人生を変える。
このことを知った私たちは、もう「ただ老いていく」だけの存在ではありません。
我々は、「これからどう生きるか」を選び取る、成熟した存在なのです。